『狐と狸の化かし合い』
実はこれ、漆器の駒箱に描かれた珍しい蒔絵である。
駒箱と言えば、現代では「島桑」「楓」「栃」「黒柿」など、
さまざまな銘木材から造られる作品が主流のイメージだが、
昔は「盤」の側面も、蒔絵で装飾されていたものもあるように、
古い時代には、このように漆器に装飾された駒箱も珍しくない。
木肌の美しさをそのままに楽しむ、近代主流の作風も魅力的だが、
駒の盛上げにも用いられる「蒔絵筆」を、本来の用途に描かれた絵柄もまた、
ノスタルジックな味わいをも感じ、実に楽しいものである。
ところで、将棋を『化かし合い』と形容するのは如何なものか?
将棋は他のゲーム性と異なり、持ち駒などは全て盤上に晒すなど、
偶然性の要素も極めて低い、正々堂々たる勝負である。
筆者は、写真の蒔絵を以下のように解釈する。
「狐と狸が『化かし合い』の勝負を演じ、結局「マヤカシ」では勝負がつかずと、
真の実力勝負である「将棋」に切り替えた」
このように、見る者の想像を多様に掻き立ててくれるのも、
蒔絵の持つ、ひとつの楽しい醍醐味ではないだろうか。
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